将来俳優になりたいと考える方々は、常に一定数はいらっしゃると思います。そしてその方々の多くは、その思いを脇に置き、いわゆる「普通の社会人」に成っていくのだと思います。
もしこの記事を読んでくださっている方々の中に本気で俳優になりたいと思っていらっしゃる方がいて、周囲から反対されたり、踏み出す勇気が持てなかったりして、その道に進むのを諦めてしまった方がいらっしゃったら、どうか一度立ち止まって、この記事を読んで頂けませんか?
舞台演出家の鴻上尚史さんという方をご存知でしょうか。大学時代に劇団を立ち上げ、その後長らく日本の演劇界を牽引してこられた方です。
その鴻上尚史さんが、相談者さんから寄せられた相談に回答している回答集、「鴻上尚史のほがらか人生相談 息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」が、2019年11月に朝日新聞出発から上梓されました。そしてその中に、俳優のセカンドキャリアについて言及している箇所があるんです。その著書の中の「相談16 大学生の息子が俳優になりたいと言いだしました。人生を棒に振ってしまったらと心配で、私も妻ももちろん反対です」の節です。
その節で氏は、これまでプロの俳優を目指してきたけど結果的に成れなかった人々が、その後優秀な働き手に成っていったケースを多数見てきたことを明かしています。それは、プロの俳優を目指して精進することで、下記に挙げる3つのスキルが身につくからだそうです。
1ちゃんと挨拶することができる。
2先輩を立てることにとても敏感である。
3コミュニケーションのスキルが上達する。
よく「何でもいいから一つのことを続けたら、そのこと自体が一つの財産になる」とおっしゃる方がいます。もしかしたらその通りなのかもしれませんし、そのことは俳優業についても言えることなのかもしれません。でもだからと言って、「よし、将来の不安は消えないけど、とにかく好きな俳優を目指してみよう」って思えるものでしょうか?仮に私が俳優に成りたいと思っている若き青年だったとして、そう思うことで俳優の世界に踏み出せるかどうかと言えば、何とも言えない気がします。そのような精神論的というか、抽象的なことじゃなくて、何か明確なスキル、俳優に精進することで身に付く明確な社会人スキルがあったら踏み出せそうな気がするんです。
先に挙げた3つのスキルは、まさにそのようなスキルと言えると思いませんか?
私はこの節を読んだ時、とても嬉しくなりました。これって俳優を目指す方々にとっての、一つのセイフティネットとして捉えることが出来そうですよね。
あともう一点、もし今俳優を目指したいけど踏み出せないとい方に、改めて別の角度から知っておいて頂きたいことがあります。それは、俳優を目指したいけどやめにして、別の仕事を探そうというスタンスで見つ出した業種においても、その業種が好きで入ってきた人達が居るということです。例えば、俳優になりたいけど諦めて、食品メーカーに入ったとします。するとその食品メーカーの同期の新人の中に、自分は食品に携わるのが好きで好きでたまんないんだよ、コンビニのカップラーメンに新商品を見つけたら、それをどうしても食べてみないと気が済まないんだ、とか、私はデパート地下の食品売り場を見ることが大好きで、日曜の夕方は、ほぼ毎週見に行ってるんだよ、とか、そういう人物が食品メーカーに入ってきたりするわけです。同期入社だからある意味彼等がライバルになわけですよね。そんな彼等に、俳優に踏み出せなかったから何となく食品メーカーに入社したという人物が、果たして勝てるものでしょうか?答えは明白ですよね。
いかがでしょう?もし本気で俳優を目指したいという気持ちがあったら、その気持ちに寄り添ってあげてみるのもありじゃありません?
さて改めて、先程の著書のはなしに戻ります。やはり同じ節の中でですが、氏はとても興味深いことを述べています。氏によれば、俳優のオーディションを受けに来る方々の中に「30歳で初めてオーディションを受けるという女性」が多いそうです。そしてその理由としては、高校卒業の時に、俳優になりたくてオーディションを受けようと思ったけれど親に反対されて、大学に行った。大学卒業の時に、今度こそ俳優になりたくてオーディションを受けようと思ったけれど、親に反対されて、就職した。そのまま、働いてきたけれど、ずっと俳優になりたかった。会社をやめてオーディションを受けようと思ったけれど、親が反対するだろうと思ってできなかった。でも、30歳になったら、もう、親に反対されても自分のやりたいことをしてもいいと思った。だから、30歳で初めてオーディションを受けに来た、ということなのだそうです。
氏も、それだったらどうしてもっと早く受けなかったんですかと思うと述べていますが、私も本当にそう思います。
いかがでしょう。
世にある様々な職業の中でもし俳優になりたいと思われていらっしゃったら、まずはチャレンジしてみてはいかがでしょうか。やってみた結果、「あっ、なんか俳優はやっぱりちょっと違うな」そう思うかもしれませんし、「うわっ、プロの俳優になるのってこんなに大変なんだ、自分には無理だこりゃ」って思うかもしれません。しかしそれも一つの経験なのではないでしょうか。また一方、やってみて本当にのめり込み、三年ないし五年本気でやってみたけどプロの俳優にはなれなかった、仮にそういう場合であっても、その頃には有益な社会人スキルが身についているでしょうから、今度はそのスキルを活かしたセカンドキャリアで輝く道を見つけたっていいわけです。
ここまで読んでくださりありがとうございました。