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これから進路を決めようとする若い方々に、我々大人が提言できること

私が学生だった頃、俳優になりたい、ミュージシャンになりたい、作家になりたい、お笑い芸人になりたいなど、ごく一部の人しかなれないとされる職業に就こうとすることは、とても大きなリスクがあり、相当の覚悟を持って踏み出さなければならないとされていました。そういう職業ではなくて、公務員や銀行マン、またはそれ以外の名の通った企業など、安定していて給料が高いとされる職業に就くことが好ましいとされていました。

しかし今は、新卒で就職した会社に定年まで居続ける時代ではなくなりましたし、多くの仕事がAIにとって変わられると言われています。

そういう時代に、これから進路を決めていこうとする若い方々に対し、我々大人が何か提言できる言葉があるとすれば、それはどんな言葉なのでしょう?少なくとも「しっかり勉強していい大学に進学し、いい会社に入りなさい」というだけでは、説得力に欠けるように思うのですが、いかがでしょう。

彼等が就いた仕事先で求められること、それはやはり成果であり結果なのでしょう。ではその成果・結果を出す為には、一体どうすればいいのでしょうか。その為の方法は様々あると思いますが、一番シンプルなのはやはりその仕事にのめり込むことだと思います。ではその仕事にのめり込む為にはどうすればいいでしょうか。様々な方法があるとは思いますが、やはりシンプルなのは、その仕事が好きであることだと思います。

でもこの「好き」というのが、何かと難しいように思います。

仮に今ここに、進路を決めようとしている二人の青年が居るとします。一人は人体の構造について飽くなき探求心を持っており、大好きなおじいちゃんが医師の手によって命を救ってもらった経験があり、手先が人並み外れて器用で、医師を志しているとします。またもう一人は、一人っ子として育ち、子供の頃から人形遊びが好きで、やがて自ら創作した物語を人形で演じさせるようになり、中学・高校・大学では演劇部で創作演劇の台本を書き自ら演出をやっていて、舞台演出家を志しているとします。

そんな二人に対し、私達大人は医師を志す青年にはその志しの通り、医師を目指すように言えるでしょう。しかし他方の舞台演出家を志す青年に対しては、舞台演出家を目指すように言えるものでしょうか。

これは非常に悩むところだと思いますが、一つ確実なことは、彼の親が舞台演出家を目指すことに猛反対し、それを止めさせて一般企業に就職させたところで、彼自身が大好きな舞台演出の要素を、就職した先の仕事にフィードバックできなければ、その会社で埋もれてしまう可能性が高いということです。

それを思うと、彼の舞台演出力を強みとし、今後も磨いていったほうが良いように思えてきます。

今ここに、ABCDEの五人で構成された会社があるとします。この会社の中で強みを有する人物はAで、Aは他の四人を雇用して会社を運営しているとします。そして他の四人はAからもらった報酬で充分に生計を立てることができていたとします。しかしある時期から、この会社の仕事の多くがAIに取って変られ、DとEに辞めてもらうことになりました。さらにこの会社は競合他社との競争に破れ、BとCのいづれかにも辞めてもらわなければならなくなり、結果として、成果に乏しいCに辞めてもらうことになったとします。

この例は、今もしくはこれから、多くの企業が晒される現状をあらわしていると思いますが、我々が強みを有する他者に完全に依存してしまうことが、いかにリスキーであるかを端的に表していると思います。幸いBはAの会社に居続けることができました。しかしCとDとEは、Aの会社を辞めなければならなくなりました。

CDEの中で、幸いCは自らの強みを使ってXYZという人物を雇って副業をしていたので、Aの会社を辞めても何とか生活を維持することができたとします。「強み」について言えば、実はDとEも強みを持ってはいました。しかしそれがすぐに収入に結びつくとは思えなかった為、その強みを封印してAの会社に就職したのでした。Aの会社を追われた今、DとEは次の一手を模索しているとします。そこでDは、自らの強みを使った業種で会社を起こし、家計の為に平行して別の会社で副業させてもらうことにしたとします。一方Eは、やはり強みを封印したまま、比較的給料の良い別の会社に就職することにしたとします。さてこの場合、DとEとでは、どちらのほうがリスクが少ないでしょうか。もしかしたら現時点ではまだ、Eのほうがリスクが少ないと言えるのかもしれません。しかしこれからは違ってくるのではないでしょうか。

情報科学の目覚ましい進歩により、これまで集団でなくては実現できなかったとされる様々なことが、個人の力でも実現できるようになりました。情報の発信力などはその一例かと思います。もし仮に、Dがこの情報発信力をうまく活用する術を身につけたとしたらどうでしょう。もしそれが出来たら、自ら顧客を獲得したり市場を開拓したりできる可能性があります。一方強みを封印して別の会社に就職したEについてはどうでしょう。そもそもEが、その会社にずっと居続けることは可能でしょうか。極めて変化の激しいこれからの時代、Eがその会社に居続けるのはやはり難しいように思います。そう考えてくるとEも、せっかく強みを有しているのでしたら、その強みを生かして生計を立てることを模索したほうがいいように思えてきます。

さて先程の、舞台演出家を目指す青年についてですが、彼には劇作や舞台演出を通して備わった彼なりの強みがきっとあることと思います。それは例えば、何かの題材を物語化する能力だったり、実際の人物と、その人が担う役割としての人物とのあいだにある隔たりを少なくさせるような言葉を、その人物に投げかけられる能力だったり、一つの目標に集団を導ける能力だったりするのでしょう。そしてそれらの強みは、仮に彼が舞台演出家になれなくても、実社会において何かしらに有効活用できるだけの汎用性を有しているように思うのです。

さて、これから進路を決めていこうとする若い方々に我々大人が言えることについてですが、それはきっと「好きなことの取り組みを通じて何かしらの強みを獲得しましょう。そしてその強みを実社会で有効に活用する方法を考え、それを実行していきましょう」といったようなことなのではないでしょうか。

ご一読くださいましてありがとうございました。

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